Back To The Futureから学ぶ、「過去の常識は、未来の非常識」1
2015年10月21日と言えば、分かる人なら分かる『BTTF2(Back To The Future Part 2)』の舞台。
僕の英語の先生はマーティー(物語の主人公)、と言えるぐらい台詞をシャドーイングしながら擦り切れるほどVHSのビデオもDVDも見た。バックトゥーザフューチャーの話で23時間は語れる愛してやまない作品。30年前の映画は忘れてしまったという人やBTTFを知らない世代のために紹介しよう。
主人公は、カナダ人のマイケル・J・フォックス扮するマーティー・マクフライ。親友のエメット・ブラウン博士(ドク)が発明したデロリアンに乗って過去や未来へタイムトラベルするSF映画。監督はロバート・ゼメキス、製作総指揮スティーブン・スピルバーグ。
Wikipedia: バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2
BTTFファンにとって2015年は、『2001年宇宙の旅』ファンにとっての2001年ようなもので、ちょっと特別な意味を持つ年。BTTFシリーズ公開30周年を迎え、ドキュメンタリーが映画化されたり、北米を中心に盛り上がっている。
NYのタイムズスクエアで2015年のニューイヤーズカウントダウンをした時には、googleのトップ検索ワードを宣伝するビルボードに、BTTF2の未来のシーンで登場する宙を浮くスケートボード「ホバーボード」が幾度となく映し出された。スマートフォンやドローンみたいにライフスタイルが劇的に変わるわけでもない子供向けのおもちゃなのに、この高鳴る興奮はなんなんだろう。あの映像とともに忘れられないカウントダウンとなった。
馬車を知らない子供たちに大人が「昔はエンジンがついた自動車はなくて、馬が引っ張る馬車があったんだよ」と説明するように、「昔はタイヤが付いたスケートボードと呼ぶものがあったんだよ」と宙に浮くホバーボードが当たり前になる未来を想像するとワクワクする。
過去の常識は、未来の非常識となる。
2015年には、まだ自動車は人間が運転するのが常識だが、無人の自動運転するロボットカーが普及した未来には、自動車は国民が気軽にハンドルを握って運転する乗り物ではなくなるだろう。おそらく人が公道で自動車を運転することも禁止される。
日本では過去となった風景が残る海外を訪れたり、マニュアル車とAT車に変わった歴史や、原付自転車やセグウェイやF1カーが走行できる場所が限定されている事実を、いろいろな角度から重ね合わせると未来が見えてくる。2015年時点でも、GoogleやAppleがロボットカーの開発を公表したり、オランダではモノレールのように自動運転するシャトルバスがスタートしている。
現実世界の2015年でも、海外へ行けばヘルメットも一つのバイクに家族で4人乗りするほのぼのした景色が見られる。日本でも昔は見られた光景らしいが、現在はもちろん交通違反でもう絶滅した。昔は合法のことが未来には違法になり、その逆も然り。車の運転が好きな人は、ロボットカーが普及し規制が厳しくなる前におもいっきりドライブしておこう。今はもう自分で運転することはできないけど、あの頃は僕が運転する車のサイドシートに彼女が座ってこのハイウェイをドライブしたんだなんて未来がくるかもしれない。
BTTFに登場するような空飛ぶ車の時代はまだだいぶ先だけど、おそらく先進的な取り組みに積極的なシンガポールあたりでロボットカーが近い将来に導入されるだろう。タクシーに乗ったらロボットが目的地まで連れて行ってくれる未来はもうすぐそこまで来ている。願わくば2020年の東京オリンピックで、世界が驚く未来都市っぷりを見せたい。
過去の常識が、未来の非常識となるのはテクノロジーだけではない。
次は、カルチャーの過去の常識と未来の非常識についてお話しする。
参考:
Back To The Futureから学ぶ、「過去の常識は、未来の非常識」前回の記事。
BTTF1では、マーティーがデロリアンに乗って1985年から30年前にタイムトラベルをする。1955年の時代を知る者にとっては懐かしい、知らない人にとってはある意味で新鮮な、過去の常識を知ることができる、おもしろい場面がたくさんある。
例えば、マーティーが訪れた喫茶店で働くウェイターの黒人のゴールディ・ウィルソンに、あなたは市長になると言うシーンがある。そこで彼は市長になってやると宣言するが、店長に「黒人の市長など聞いたこともない」と馬鹿にされる。1955年当時は、黒人の市長は非常識だった。2015年の黒人のオバマ大統領を常識として知る世代にとって、1955年の店長の発言は非常識に聞こえるだろう。
ちなみに1985年に市長になったゴールディ・ウィルソンの孫は、劇中の2015年の世界でも活躍しており、空飛ぶ自動車を宣伝している。現実世界では、2015年には間に合わなかったけど、政治家から実業家という転職が未来の常識となることを示唆している。
大統領つながりでもう一つ紹介する。1985年から来たマーティーが、1955年のドクに、1985年のアメリカ合州大統領はロナルド・レーガンと言うとドクが馬鹿にして信じないで返す。「俳優の?じゃあ副大統領はジェリー・ルイス(俳優)で、ファーストレディはジェーン・ワイマン(女優)か?」と。1955年の時点でロナルド・レーガンは俳優で、彼が大統領になるなんて常識では考えられなかったわけだ。カルフォルニア州知事になったターミネーターのアーノルド・シュワルツネッガーを知る世代には非常識なことではない。
音楽も過去と未来で変わる。ロック好きならたまらないBTTF三部作の中でも屈指の名シーンがある。
1955年にタイムスリップしたマーティーが、怪我をした黒人ギターリストのマーヴィンの代理としてステージに立つ。1985年から来たマーティーにとってはオールディーズ、1955年のゲストにとってまだ聞いたことのない1958年のヒットソング、チャックベリーの『ジョニー・B・グッド』を演奏する。その演奏を聴いたマーヴィンは新しい音を探していた兄弟のチャックに電話をかけ、受話器越しに演奏を聴かせ、そこからジョニー・B・グッドが生まれたというフォレストガンプでもあるロバート・ゼメキス監督の好きな遊び。
ヒートアップしたマーティは、ベンチャーズのテケテケや、ヴァンヘイレンのライトハンド、ジミヘンのように背中にギターを回してたり、1955年以降に流行る激しいギターソロをやりすぎて観客も他の演奏者もドン引きする。「君たちには早いけど子供の世代にはわかる」と言う場面は、音楽と騒音の常識も過去と未来で変わることをユーモアたっぷりに教えてくれる。
現実の2015年の音楽も、過去と未来で常識が変わってきている。日本の音楽の未来は、世界の音楽を聴けば聴こえてくる。日本では、ヨーロッパや北米の周回遅れのEDMが流行っている。BPM早くなり、低音は重くなり、音も増え、それに飽きたらミニマムやヒーリングが流行ったりするんじゃないだろうか。昔は、作曲家や演奏家ではなく、演奏もせず音楽を流すだけと軽視されていたDJの価値はうなぎのぼりで、トップDJの時給は何千万円と桁違いの稼ぎを出している。UltaraやTomorwo Landのような巨大野外フェスやステージからホテルまでプロデュースしたりディネ・アン・プランのようなシークレットパーティーやVVIPシートが日本でも流行る。
ヒットチャートはアイドルグループが名前を占めたり、クラブで踊ってはいけないという意味不明な条例を作る日本の音楽シーンに期待はできないが、欧米のクラブ文化が浸透すればば、後進国の日本は伸び代が大きい。
音楽の聴き方も過去と未来で常識は違う。レコードを聴く時代、カセットテープでダビングしていた時代から、CDをレンタルする時代、iTunesでダウンロードする時代を経て、Youtubeにアップしたり、Apple Musicで聴き放題の時代がやってきた。未来は今よりもっと素人が作った曲やミックスした曲を共有する時代になる。インターネット回線が早くなり、スマートフォンのカメラが高解像度になり、動画処理するコンピュータやタプレットのCPUが早くなり動画の扱いが簡単になれば、音だけでなく映像を加えた音楽が増える。X Japaanが亡きHideをホログラムで復元したようなこともアマチュアがやりだす。それもオンラインからオフラインで。いずれ著作権の規制は厳しくなり、今は限りなく黒に近いグレーで共有されている音楽は、もっと遊びのわかるアンダーグランドな場所へ潜る。
過去の遊びと思われているようなことが、未来は職業になる。
インターネット創世記は、オンラインでしか手に入らなかったものが多かった。しかし、インターネットが普及して大衆インターネットを使う時代になると、今度はインターネットでは手に入らないものが増えてくる。いま時代の先を行くアーリーアダプターと呼ばれる人々は、 かつて日本から飛び出し海外へまだ見ぬ宝物を求めたように、インターネットから飛び出し圏外へ宝物探しに出ている。個人的には2~3年前からインターネット圏外への旅が増えた。
これからの時代は大人の本気の遊びが仕事になる。今回は、BTTFの2015年の世界で、現実世界でどこまで現実に近づいたかを紹介しながら、仕事が遊び、遊びが仕事になることを見ていく。
BTTF2で2015年の未来のシーンで、マーティー(マイケル・J・フォックス)が女の子から拝借した宙を浮くホバーボードは、ここまで実現している。Lexusのホバーボードは本家ホバーボードでは止まってしまう水面も走っている。動画で必死に練習する大人を見て欲しい。おもいっきり遊んでる。めちゃくちゃ楽しそう。開発した人も動画を作った人もおもしろかったはず。日本のエンジニアならガンダムを作りたくなるように、北米のエンジニアならホバーボードは作りたくなるのではないだろうか。その遊びを本気で取り組んだ人が未来を変える。
空飛ぶ車、エアロモービルは2017年発売。道と法律の規制が難しいみたい。空飛ぶ車は、売れるか売れないとか言う次元ではなく、ライト兄弟やリンドバーグが空を飛び、フォードが車を進化させたように、男なら挑戦したくなる。
BTTF2の未来でドクがマーティーに履かせるNike製の自動で靴ひもが締まるシューズ。Nike MAGとして、2015年内の発売を発表している。靴職人やエンジニアがあのシーンを見たら、必要か必要でないかとかではなく、作りたくなる人が絶対いるだろう。
2015年の未来に来たマーティーをかぶりつこうとしたジョーズ19のシーンで印象深い、ホログラフィックディスプレイ。ハプトミラージュのような裸眼3D映像はもうそこまで来ている。このシーンに影響を受けた広告を作るクリエイターが絶対いるはずだ。
ジョーズ19のトレーラーは、ユニバーサルピクチャーズにより公開されている。これを作るスタッフはめちゃくちゃおもしかったと思う。おもいっきり遊んでる。
劇中で一本$45のペプシパーフェクトも、ペプシが6500本限定で価格$20.15で発売すると発表した。CMもあるけど、これも完全に遊んでるでしょ。
Skypeやテレビ電話を発明したエンジニアも、マーティーが伊藤富士通さんと大型スクリーンで通話するシーンにヒントを得たかもしれない。音声認識コンピュータはSiri、署名を依頼するタブレットはiPadのようだ。もし80年代にBTTFを見て製品開発に影響を受けたとしても、はじめは仕事として英語をみたわけではないはず。遊びで見た映画からヒントを得ている。
U23のFuture Work《未来の働き方》も2003年の創業期は怪しく思われたけど、だいぶ時代が追いついてきた。2015年に、SOHOやノマドワークを否定するほうが時代遅れと言われる。過去の非常識は未来の常識となる。
U23がFuture Life《未来の働き方》で提案する、仕事を遊びに、遊びを仕事に変える生き方や、定住しない生き方は、2015年にはまだ時代が追いついてなくて、未来にはそこそこ常識となっているはずだ。
AIやロボットが進化し、ベーシックインカムが普及すれば、アーサー・C・クラークの幼年期の終わりで描かれたような、仕事は趣味でやるものになるかもしれない。
失ってはじめて気づく恋人のように、仕事を奪われた時に、はじめて仕事の大切さに気づく。今の仕事を楽しもう。もっともっと仕事はおもしろくなる。
過去の常識は未来の非常識、未来の常識は過去の非常識。
Change The Future…