新海誠全作品&『天気の子』映画鑑賞レポート

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世界23周の旅をするCEOの映画鑑賞レポートシリーズ、2019年夏、話題の新海誠監督最新作『天気の子』の感想をお届けする。

『君の名は。』を観るまでは、新海誠の名前すら聞いたことがなかった。誘われてなかったら今も観てなかったかもしれない映画を観たその日から過去の作品を一気に見直すほどはまった。「新海ワールド」の世界観、緻密な風景描写、叙情的な音楽挿入、作品のつながりや進化を知ると、最新作『天気の子』が23倍おもしろくなる。そこで劇場デビューから全作品をレビュー。

新海誠作品一覧

『ほしのこえ(The voices of a distant star)』

2002年、新海誠初の劇場公開作品で、宇宙に旅立った少女と地球に残った少年の恋愛と戦争を描いた25分のフルデジタルアニメーションで、、、と紹介されてもそこまで惹かれない。しかし、これはクリエイターに革命を起こした作品だ。

アニメショーン映画を一人で作れるわけないと言われた時代に、当時28歳の新海誠が、監督・脚本・演出・作画・美術・編集・作詞、さらには声優まで、Power Mac G4とAdobe Photoshop 5.0、After Efects 4.1などの環境で、ほぼ一人で制作したと知った時に衝撃を受けたことを覚えている。月へ行けると考えた人は他にもいただろうけど、本気でそれに取り組み月へ行ってしまった、そんなすごさだ。まさに、鬼才、変態、狂人、それは賞賛と尊敬に変わる。

背景やメカニックの映像は10年後でも通用するぐらいクオリティが高い。素人のようなキャラクターデザインやアマチュアっぽい物語さえ、新海誠も人間、誰にでも苦手なことはあると勇気をくれる。そのギャップやバランスの悪さが余計に人を惹きつけ、将来すごい監督に化けるんじゃないかと当時のファンはダイヤの原石を見つけた気分だったのではと想像する。

ガンダムやエヴァンゲリオンのパクリと批判はできるけど、スピルバーグ監督も黒澤明監督の作品を参考にした本人が語っている。ピカソの名言にあるように、凡人は模倣し、天才は盗む。そして、今、クリエイターの卵たちは、新海誠から学んでいるだろう。

『雲のむこう、約束の場所(The place promised in our early days)』

2004年、新海誠監督、初の長編アニメーションで、初めて本格的に共同制作した。フィリップ・K・ディックの『高い城の男』や村上龍の『5分後の世界』にも通じる、津軽海峡を境に南北に分断された戦後のパラレルワールド(並行世界)を描いたSF作品。新海誠作品の重要なキーワードである距離と時間をテーマにした映像叙事詩。個人的に、新海監督作品中で一番のお気に入り。

『ほしのこえ』の課題を修正して、特にキャラクターが見違えた。『君の名は。』を彷彿させる作品で、マニア向けの『雲のむこう、約束の場所』を、大衆向けに作り直したらヒットしたという印象。物語は前後半で転調し集中していないとついていけない複雑さで、人気になる前だからできた監督のやりたいことをやってしまったところがいい。オープニンの駅から始まり、中盤の鉄道や学校、エンディングの飛行機の細部まで美しく描かれうっとりする。主題歌の「きみのこえ」は、切ないメロディーとボーカルの声が映像と融合する名曲。この時期の音楽を担当していた天門と新海誠作品の愛称は抜群なので、このコンビの新作も観たい。

青森県のJR津軽線の施設や沿線が、作中の舞台のモデルとして使用されている。聖地巡礼の旅もおもしろそう。ベルリンの壁みたいに東京で分断もできただろうに、東北や北海道を選んだ舞台の移り変わりの距離感もいい。新海誠が有名になればなるほど、再評価されるのではないかと思う。『天気の子』でも身近な東京の風景が、聖地巡礼したくなるほど美しく描かれている。

『秒速5センチメートル(a chain of short stories about their distance)』

2007年、新海誠監督の劇場公開第3作目、「桜花抄」、「コスモナウト」、「秒速5センチメートル」の短編3話のオムニバス。長編が苦手なら短編をつなげたらというおもしろい発想。3編のキャラクターが絡み合うパターンではなく、距離と速度を共通のテーマにしたそれぞれ別の物語。

桜の花びらが舞い落ちる速度とか、もうタイトルだけでセンスを感じる。ちなみに、新海誠の作品には全て英語のタイトルをつけているが、英語より日本語のタイトルの方が、サウンド的にもヴィジュアル的にも言葉選びが圧倒的に美しい。英語の原題を邦画のタイトルにしたら逆のことが起き、翻訳の難しさを感じる。

舞台が、全二作のSFと違い日常になったとことで、より風景に現実感が増している。実写映画のようなビデオで撮影したようなカメラワークやカット割りの映像も、主題歌の山崎まさよしの『One more time, One ore chance』も劇中歌のLindberg『君のいちばんに…』も、セレクト、タイミング、ミックス、すべて良し。ちょっとした日常の音がリアリティを感じさせ、『天気の子』ではそれをパワーアップして聴くことができる。

『星を追う子ども(Children who Chase Lost Voices from Deep Below)』

2011年、新海誠監督の劇場公開第4作目。これまでの過去三作とかなりタイプの異なる、ファンタジーアニメーション映画。

「日本のアニメの伝統的な作り方で完成させてみる」と個人的に目標にしていたらしく、宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』『トトロ』などを連想させる場面が多くある。本人もジブリファンと公言しており、スタジオジブリを意識して作ったのは間違いない。これをパクリと呼ぶかオマージュと呼ぶかは人それぞれだけれど、アニメ制作に携わるもので宮崎駿監督の影響を受けてない人はいない。

ちなみに、別世界だけど『ほしのこえ』地下世界、アガルタの名前が出てくる。『天気の子』にも『君の名は。』で出てきた名前が出てきたり、新海誠作品は、直接の話はつながっていないけど、わかる人にだけわかるトリビアを見つけるのもおもしろい。本作でも表現される、喪失は、新海誠の作品におけるキーワードの一つ。

『言の葉の庭(The Garden of Words)』

2013年、新海誠監督の劇場公開第5作目。東京、新宿御苑を舞台に、靴職人を目指す生徒が、退職と病に苦しむ年上の女性の恋愛物語。

実写映画のような内容でアニメーションにする必要があるのかという意見もあるが、それを確認するために一つぐらいこういう作品があってもいいと思う。作品ごとに進化する風景描写は、ここに頂点を極める。オープニングからカメラで撮影したような実写かと見間違うリアルな映像に思わず画面を凝視してしまう。そして、ただ現実の風景を写生したのではなく、監督の主観を加えることで、現実を超える美しい景色に息を飲む。

特に、雨の雫は、ひと粒ひと粒に魂が注がれたような美しさ。世界広しといえど雨、雪、桜を描かせたら、新海誠作品の右に並ぶものはいないだろう。『天気の子』でも雨の美しさはこれでもかと見せつけられる。

『君の名は。(Your Name.)』

2016年公開、新海誠作品としては初めて製作委員会方式をとった。東京に暮らす少年と飛騨の山奥で裏す少女が入れ替わり、時空を超えたロマンスストーリー。新海誠のこれまでの作品で見覚えのあるテクニックやメッセージを随所に見つけることができる集大成とも言えるような作品。誰もが楽しめるエンターテイメントを目指して作ったらしく、時代のニーズに合わせて物語がシンプルかつリズミカルになり、脚本から映像と音楽に到るまで様々な面で計算し尽くされた現代映画のお手本。言われるまで気づかなかったけど、『言の葉の庭』のキャラクターをカメオ出演させるファンサービスも忘れていない。

日本国内の興行収入は250億円にまで上り、日本で公開された映画の中で『千と千尋の神隠し』、『タイタニック』、『アナと雪の女王』につぐ歴代4位、邦画では歴代2位、世界興行収入は3.55億ドルで、『千と千尋』の2.75億ドルを超え日本映画および日本のアニメ映画で世界歴代興行収入1位を記録を打ち立てた。

音楽がこの上なく素晴らしく、劇中歌の全て製作したRADWIMPSの4つの主題歌、「夢灯籠」「前前前世」「スパークル」「なんでもないや」 も大ヒット。セリーヌ・ディオンを聴いたら『タイタニック』、『タイタニック』を観たら『セリーヌ・ディオン』ぐらい、映画と音楽が一体化している。「曲を聴いた上で作りたいシーンがいくつかある」という要望を受けたというのも納得で、映像と音楽の相性は完璧で、壮大なミュージッククリップのよう。

『天気の子(Weathering With You))』

2019年公開、新海誠作品の最新作。上京した家で少年と天気を操る少女の物語。

前作『君の名は。』の大成功の後、かつてない期待と注目が集まる中、想像を絶するプレッシャーだったであろう。無難に大衆やスポンサーが求める、”君の名は。2”とか、”君の名は。ぽい”ものにして、前作の財産に頼ったり、前作の焼きまわしをすることも可能だった。しかし、思っていた以上に、新しいことに挑戦するというか、ブレイクする前の昔の新海誠らしさを詰め込んできた。ユーザーやスポンサーの声やスタッフの声も聞きながら、かと言って媚びる訳ではなく、リスクを冒してやりたいことは譲らず挑戦しているように思う。試写会をなしでギリギリまで修正を繰り返していたことからも、出資者と現場の葛藤が想像できる。

これだけのことできる人なのに、強引すぎるとか惜しいところはあるけど、日本最高峰、いや世界最高峰のアニメーション映画制作チームなら、そんなことわかってそっちを選んだのだろう。ならば、なぜそうしたのか制作陣に寄り添って観る方が楽しめる。そして、そんな細かいことは帳消しにするほど、圧倒的な映像美で、これでもかというほど魅せつけてくれる。IMAXであんな美しいアニメーション映画を魅せられた日には、もう拍手しかできない。そして、興奮はRADWIMPSの「グランドエスケープ」で最高潮に達する。女性ボーカルを採用したのもおもしろいし成功している。「愛にできることはまだあるかい」も間違いなくヒットするだろう。賛否両論が起こるであろうエンディングも個人的に好き。

この映画は、東京をよく知る人と、そうでない人と見え方が異なるだろう。『天気の子』を観たら、今まで通り過ぎていた見慣れた東京の風景が、昨日より美しく見えるかもしれない。バニラの宣伝トラックもマンボーの漫画カフェも新海誠が描くとアートに変わる。時代を反映した描写は、何十年かして見直した時に、あの頃はこんな風景だったよねと懐かしくなる映画。アニメーションなのに、実写のようなカメラワークもさらに質を高めフォーカスのボケや、ビニール傘やガラスの半透明と反射が美しい。雨も雲もまるで生きているみたい。

トリビアとしておもしろいのは、『君の名は。』のキャラクターの瀧とか三葉がカメオ出演している。もしかしたらと思ったらやっぱりエンドロールで名前が出てきた。他のキャラも出ていたようなので、2回目を観る機会があれば探してみよう。こういうちょっとしたわかる人にだけわかる伏線というか遊びは好き。本田翼とか小栗旬とか俳優を声優に起用し、サントリーや日清食品などスポンサーとコラボレーションしたプロモーションも抜かりがない。

『君の名は。』がまぐれでなかったことを証明した。宮崎駿監督はバスケット界で言えばマイケル・ジョーダンみたいなもので神様と並べるのは気がひけるけど、ポスト宮崎駿として現代アニメーション映画界の頂点の域に足を踏み入れ、庵野秀明監督や細田守監督と肩を並べたというか、個人的には越えた感はある。ピクサーを押しのけてオスカーを掴んで欲しい。

おまけ

彼女と彼女の猫

1999年、新海誠監督の5分ほどの個人制作のアニメーション。20世紀の自主制作アニメーションとは信じられないクオリティの高さ。風景の描写も演出の技法も音楽の表現も新海誠監督の原点に触れることができる貴重な映像。その後の作品と重なるシーンが多々あり、昔からやりたいことは一貫していてぶれずに磨き研ぎ澄ましてきたのがわかる。おそらく、もうこの頃から監督の頭の中では理想のイメージみたいなものはあって、やっと制作環境が整って実現したのが『君の名は。』なんだろう。メジャーアーティストのデビュー前のデモテープを聞いたような感動。

U23が信じることや伝えたいことは創業時の2003年から変わってなくて、いろいろ表現や方法を変えて叫んだり囁いたりしているに過ぎない。そしてこれは永遠に続くのだろう。

Change The Future…

天気の子公式サイト:https://tenkinoko.com/